護国聖戦シャングリラ - トップページ
――この国は死にかけている。

 五千年の歴史を誇る麗しの『王国』。その栄誉も今や上流階級の民にのみもたらされ、八割以上の庶民たちは皆が明日の飯の命の保証も持たぬ暮らしをおくっていた。
 悪政の続く時が流れれば流れるほど、地位と力の無い者からあっけなく死んでいく。しかし『陛下』が掌中するこの王国は、国中から集められた特別な能力『天恵』を持つ者たちによって構成された『親衛隊』が隅々まで目を光らせており、各地に散らばる『反逆軍』たちは百何年もの間ずっと革命を成功させられずにいた。

 多くの無辜なる人々が徐々に希望を失いかけているこの王国で、ある日『魔女』が公開処刑された。
 彼女は親衛隊に属する娘だったが、その裏で秘密裏に反逆軍と通じており、最新鋭の医療器具や防具を横流ししていたこと、捕らえられていた反逆軍の囚人たちを治療し密かに逃がしていたこと、民間人に被害の出る作戦の情報を実行前に反逆軍に教えていたことが上に露見したのだ。
 癒しの力を持つ心身共に優しき彼女は反逆軍では『聖女』と呼び慕われており、彼女の公開処刑の日には彼女を奪還するために会場に潜伏している反逆軍の者らが幾人もいた。
 だが、周囲にはもっと数多くの親衛隊の者らがおり、反逆軍が蜂起したところで到底彼女を救い出せはしない。犬死するだけである。
 故に彼女はこれから磔になる十字架の前で微笑んだ。牢の中で殴られ犯され蹴られ罵られ刺され餓えられ、頭の先から爪の先まで痛ましい姿で、尚も慈愛と高貴に満ちて。

 そして胸元で祈るように手を組み、彼女は口を開く。

 ――“私の本当の天恵は、癒しの力ではありません。神に私の命を捧げることで、その時私が最も強く願っていることを叶える力。……今までの私は、あまりにも甘えた小心者で。それが必要なことなのだと分かっていても、誰かの不幸は願えなかった。死にそうな人達に生きて欲しいと思うことくらいしか出来なかった。これが誰かを傷付けることになるかもしれないと考えると、仲間に武器を渡すことだって出来ませんでした”
 ――“けれど。嗚呼、ようやっと決心がつきました”

 彼女は泥で汚れた処刑台に跪き、降り注ぐ日の光を敬虔に仰ぎ見る。
 ボロと呼ぶのも躊躇われるほど悲惨な恰好をした死刑囚の挙動を、四方八方の観客たちも、近くにいる処刑人たちも何故か邪魔できない。
 それはまるで、本当に天の主が彼女のこれからすることを心から求めているかのように。

 ――“天にまします我らの父よ。主よ。神よ。この私の残りの命――いえ、魂そのものを貴方に捧げます。私はこれから未来永劫、決して他の何者にも生まれ変わることなく。この世とあの世の何処にもうつろわず。とこしえに、貴方の傍らで。御心のままに貴方を愛し崇めましょう”
 ――“代わりにどうか。私がこの王国に遺して逝ってしまう力無き人々に、自らの足で立ち上がるための希望をお与え下さい”

 斯くして真摯なる願いを神は聞き届けた。
 最愛の人の子を天の園にて己の腕に抱き続けられる喜びへの返礼として、王国に散らばる反逆軍のアジトに九つの『神器』を降り注がせたのだ。

 『熾天使(セラフィム)』『智天使(ケルビム)』『座天使(スローンズ)』『主天使(ドミニオン)』『力天使(ヴァーチュース)』『能天使(エクスシア)』『権天使(アルケー)』『大天使(アークエンジェル)』『天使(アンゲロス)』。

 九階級の天使の名を冠した九つの神器は、虫の息であった反逆軍の勢いに火をつけた。


 この物語は魔女にして聖女たる彼女の火炙りから十年後。
 革命の炎が燃え盛る反逆軍と、それらを氷の眼差しで睥睨する今だ強き親衛隊との、押しも押されぬ戦いの日々の最中から始まる。

 守られるべき≪国≫とは、果たして王か民か――――。

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